茨木のり子

朝起きて 涙がでてきた 朝起きて 細々としたわたしは あなたの詩と出会う

私は私の感受性が嫌になっています

跳ね除けても、避けても、どこからでもやってくる水のようにしなやかに、鉛のように重いその感覚は、私にしか見えなくて、誰かに伝えようものなら言葉を通じて別物へと変わっていくその様に、また私は苦しむ。

本当にそこに、すぐそこに在る、身体の中に。

それが上なのか、下なのか、真ん中なのか、奥なのか。

染み込むようにあっという間に浸透して、占領して

私の生活を美しく、そして苦しみでいっぱいにする。身体は動かず、涙だけが現実を思わせる。

そんな日々に

あなたの詩と出会う。

 

自分の感受性くらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

 

気難しくなってきたのを

友人のせいにはするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを

近親のせいにするな

なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを

暮らしのせいにはするな

そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を

時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性ぐらい

自分で守れ

ばかものよ

 

茨木のり子

 

朝起きて 涙を急いで拭いて

わたしは図書館へと向かう

もっとあなたの詩を読まなければならない

そんなことを感受性が訴えかける。